俺の近くには、恐ろしく天然の人型が居る。
いや、天真爛漫というべきか。。
実母である。そんな実母の話。

第一章      マルボロ

俺は末っ子なのをいいことに、散々甘えた挙句、学校に呼ばれたり、警察のお世話になったりと、はっきり言って最悪の出来上がりの息子。
15才で煙草を覚えた俺は
「外では吸うな」
という、両親からの忠告により、自室でスパスパと煙草を吸う、ほんとにロクでもない息子。
学校に行くと出て行き、入院中の友達の病室のベッドで寝てたり、近所の同級生に暴力を振るい、その親が怒鳴り込んできたり。
まぁ、上げてるとキリもないし、自慢出来る話でもない。

母親に言わせると
「育て方を間違えた」らしい…。ホントサーセン



或る日、俺は自室で煙草を吸っていたら、母親が買い物に行ってくると俺に告げてきた。
俺は聞こえない様な返事をして、母親がドアを閉めようとした時、俺は煙草がなくなりそうだったので、母親に買ってきて欲しいと頼んだところ、煙草を吸わない母親は俺の銘柄も分からないと言う。

「なら、アンタも来て!」
母親は俺に買い物についてこいと言う。

……うーん。煙草の為だ。
                     仕方あるまい…。
俺は母親と一緒にスーパーマーケットへ出掛けた。
青果コーナーから物色し、最後は乳製品を見て、母親は今晩からの食料品をカゴに入れていた。その間、俺は興味無さそうについて歩く。
母親は食料品を選び終わり、会計へ向かう途中にクルリと俺の方へ振り返り

「アンタ煙草なに?」
と、俺に訊ねてきた。

その頃の俺はマルボロのデザインが大好きで、マルボロを吸っていたので、母親に
「マルボロ」
と、陰毛も生え揃ってないようなガキが偉そうに答えた。

母親は「うむ」という感じで首を縦にコクリと振って見せた。

会計のレジは少し並んではいたが、それ程待つこともなく、俺達の会計の番。
母親は俺の煙草を購入する為に、レジ係の女性に
「煙草いいですか?」と問う。
レジ係の女性は
「どうぞ!」
と応答した。

ウチの母親は
それほど長くない人差し指をピンと伸ばし
ハッキリとした口調で

「マルコ・ポーロ  1つ!」


ドシェーーーー!!!!!


惜しい!   けど全然違う!
気持ちは分かる!!   だが全然違う!!

俺が欲しいのはコレであって
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今、アナタが欲したのはコレ
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確かに色合いも似てなくはない!
だが!!全然違うっ!!
マルコ・ポーロがココに居る訳がないし!!
何した人かも知らん!!

俺はこんな偉人っぷりを炸裂させた母親に心から拍手したかったが、最高過ぎて機転が回らず、コッソリと「マルボロ」と答えを教えてしまった。

今思うと、また全く別の名前を伝えて、それをもう1度、彼女に言わすというコンボがあったことを、今更ながらとても後悔している。

第二章         チュー助

見事スーパーマーケットでチャンプの貫禄を見せつけた彼女だが、そんなチャンプにも弱点があった。彼女はドラえもん級にネズミが大嫌い。          

或る日、俺は小動物のガチャポンで見事、ネズミのリアルなフィギュアを手に入れる。
使い道は簡単だった。彼女を脅かす以外の使い道はないし、おそらくタカラトミーもその為に製造したと思われる。
俺は、そのネズミを「チュー助」と呼び、とても大切にした。
俺はチュー助を、いつもポケットに入れ、チュー助出動のタイミングを狙う。

悩んだ、悩み抜いた。。
チュー助の晴れ舞台。そこは何処か。。

「ポケットからチュー助」

これもオーソドックスで、とてもいい。

「おトイレでチュー助」

これも逃げ場を失った鬼気迫る感じがいい。

「チュー助・オン・ザ・ベッド」

作戦は嫌いじゃないが名前が気に入らない…

散々、悩んだ挙げ句、俺が選んだステージは。

「レストランでチュー助」

これは、リアルなチュー助に、リアルなシチュエーション。という夢のダブルブッキング。
これ以上の案はないと自分でも唸った。まさか外食時にチュー助がチュー!等と言って現れたら、限りなくリアル。
俺はリアリティだけを追い求めていたし、家族団欒の時にチュー助を家に置いて行くなんて出来なかった。
チュー助は俺にとっては立派な家族だった。


そしてチュー助出動の日はやってくる。

「いらっしゃいませ〜!」
レストランの店員が俺達家族を席へと案内する。俺の右のポケットにはチュー助、俺は母親の左に。母親は俺の右に、丁度ポケットのチュー助を挟み込む形で着席。
 
完璧のポジショニング。

そして、俺達家族は食べたい物を選び、レストランのホールスタッフの女性に伝えた。

……いつだ。……今か?
いや、まだだ、、
失敗は許されない。
俺の不審な動きにより、ポッケのチュー助がバレてしまっては、全てが台無し。
チュー助に合わせる顔がない。

俺は、その時を息を潜めて待つ。
家族の食事も終わり、俺達の目の前には、汚れた食器。

汚れた食器……?

         ━━━━━勝機!!


全ての役者は揃った。
俺はポケットに手を入れる。
チュー助を確認!!
破損なし!!方向よし!!

チュー助  GO!!

俺は母親がよそ見している間に、チュー助を母親の皿の横にセット。
賢いチュー助はジッとしている。

母親は向き直り、チュー助を肉眼で確認!!

キャーー!!   🐁ちゅーー!!

母親は、そのままバク宙するんじゃないかと思う程、体を仰け反って大喜び!!!

俺とチュー助はウィンクした☆*°

第三章      Dm 〜病の調べ〜

そんな感じで毎度、俺達家族をパッと明るくしてくれる存在の母親。しかし、そんな太陽の様な人型に病魔が牙を剥く。

ピリリリリ…ピリリリリ…

何気ない夕方、俺の電話が鳴った。
電話の向こう側は姉だった。
「今、病院なんだけど…
       お母さんの熱が下がらず…」
姉は泣きながら、こう続ける

「肝臓に菌が入ってるらしい…
      お医者さんは、とても危険な状態だと
    このままなら10日間、もつかどうか…。」

誕生日ケーキに立てられたロウソクが、フッと消された様に、目の前が真っ暗になった。
姉は泣いていた。
日頃はKY気味な姉も、この時ばかりは現場の緊張感を俺にそのまま伝えてきた。俺はどうしていいか分からず、姉に落ち着く様に伝え、
「諦めるな」
なんて、薄っぺらい精神論しか唱えられなかった。その日は病院に向かっても会えないということで、俺は病院には行かず、1匹で過ごす。

10日…   10日…    10日……。

あまりに短過ぎた。俺達家族は暗くて深い絶望感へと呑み込まれたが、もう泣いている時間もなかった。

翌日病院へ行く。冷たい廊下を歩き、俺は沈黙と何度もすれ違った。病院の中庭では出番待ちの天使が、足を組んで頬杖の形でチェスを楽しんでいた。
━━━━何が神様だ。
あんな人型を取り上げて…
クソ野郎が……。

病室には、俺が見たこともないような、弱り切った母親が居た。
「ニッ……キ?アリガ…トウ…。」
母親は目を閉じたまま、声にならない声で俺に言った。

俺は到底大丈夫そうでもない母親に
「大丈夫……?」
それしか言葉が出なかった。

また姉から医者の言葉を聞く。
「すい臓に陰がある。肝臓がよくなったとしても、こちらの方が気になる。」

覚悟を決めた瞬間だった。

……もう助からない。

母親と過ごした生活の断片が、色あせて、鈍色に染まっていくのを感じた。
俺達家族や、母親の友人知人は、もう会えなくなるであろう人型に会いに、何度も病院へ足を運んだ。

残酷に陽は昇り、そして沈む。
一日、また一日と毎日が過ぎてゆく。

そんな中、婆さんが他界した。
俺達家族は悲しみのダブルパンチ…というよりも、婆さんに母親の病を天国に持って行く様に懇願した。

━━━この頃、俺はアコースティック・ギターで、よく「Dm」を鳴らしていた。
理由は分からない、ギターを持つといつもは「A」を鳴らすのが癖なのに、この時は「Dm」だった。
「ドン底みたいな音(Dm)」だった様に思う。


そして、入院から10日を数える。
母親はまだ病室で寝ていた。

第四章        奇跡

母親が多少話せる様になった。
喜んでも居られず、母親は姉に通帳やら、印鑑やらの母親しか動かせない物を、姉に託す準備にとりかかっていた。

俺は病院に足を運び、相変わらず
「大丈夫?」
くだらない質問を連発した。
…大丈夫な訳がない。


入院から3週間と少し経った。
俺はまた冷たい廊下を歩き、母親の元へ向かった。
病院のベッドで母は座っていた。
不味そうな晩飯を食っていた。

え!?飯!?

ずっと点滴だった、母親が飯を食っていた。

「今日から、ご飯食べれるんよ(^-^)」
母親は嬉しそうに笑った。
俺も嬉しくて笑い、バカみたいに自分の親が飯を食ってる姿を写真に収めた。

「良かったね。美味しい?
   良かったね。美味しいやろ?」
俺はそれしか言葉が出てこず、何度も良かったと述べた。

車に戻り、プライベートであまり連絡を取らない兄に報告した。姉にも報告した。
医者に何を告げられても我慢出来たが、この時だけは涙が抑えられなかった。

そして、母親は食事をとり始めてから、どんどん元気になってゆく。


「来週、退院だって!」

姉から、そう言われた。

「え、すい臓の陰は?」
俺はココからが正念場だと感じていた。

「今は見当たらないんだって!」
姉は当たり前の様に言っていたが、俺は「そんなことあるのだろうか?」と、疑問に思っていた。
しかし、現実母親も誰かの悪口を言える程までに回復していた。

そして。退院。
以前よりも、弱くはなったが母親は今も元気に暮らしている。

━━━━━神様が救ってくれたのか。
婆さんが約束通り持って行ってくれたか。

もしかして、もう1匹の家族。
チュー助が、俺達家族から笑顔を奪った「ソレ」から、笑顔を取り返してきてくれたのかもしれない。

センキュベビチュー( ´-ω-)σ🐁チチュー!!
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