この世には男と女、その2種類。
その2種の結びつきや絡み合いには、いつもドラマが生まれる。
それが良いのか悪いのか、そんなことはジャッジのしようもなく、ジャッジするなんてこともタブーなんだよ。
傷ついたことも、傷つけたことも…
それが互いに見た景色。
互いに読んだ物語として、胸の中に仕舞う。
そしてその物語に名前をつけるとするなら…
━━━━「思い出」… こう呼ぼう。
第一章 片想い
生きていれば誰でも経験するであろう「片想い」。
俺の大好きなコトバでもあるが、これ程辛い感情もなかなかない。
視線が合うだけでドキドキして、挨拶し合っただけで、その日は「good day」となり、また夜になると不安と嫉妬に震える。
それまで平凡だった日々が、まるで蜂蜜のように、ドロドロ、ネバネバと濃く不自由な日々へと変わるが、その時の感情は他にない味わいと美しさがある。
そして、俺も1匹の女の子に心を奪われる。
年齢は1つ年下で顔立ちは、どちからというと幼顔、中肉の小柄で、声を掛けると話しをするが、自分からは話しかけてこないような、静かな子だった。
━━━━名前は「なっちゃん」
俺は、なっちゃんとは以前からの知り合いだったが、俺となっちゃんのキャラの違いも感じており、俺は
「こういう子は、俺を好きにならない」
そんな風に感じていた。
自動車免許を取得した俺達は、理由なんかなく友達とドライブによく出掛けた。
その中に時々交じる、なっちゃん。
「なっちゃん、今日は誰の車に乗るのかな?」
そんな事を気にしていた。
なっちゃんは人気者で、よく指名されて誰かの車に乗る後ろ姿を俺は見ていた。
何度目かのドライブの時に、俺は1つ気がつく、なっちゃんとやたら仲のいい男が1匹。
それは俺達が可愛がっていた、後輩の「ヒデ」だった。
ヒデは年齢もなっちゃんと同じだし、よく彼女と笑い合ってる姿を見ていた。
俺はヒデの事も漢気があって、いい男だと思っていたし、嫉妬というより、むしろお似合いだと思っていた。
第二章 2匹乗り
俺達は冬の間は車、しかし春の訪れと共に移動手段がバイクへと変わる生物だった。
もちろん、俺もバイクに乗り今度は友達とドライブじゃなく、ツーリングというものに出掛ける。もちろんなっちゃんも居たし、ヒデも来ていた。
なっちゃんは俺のバイクを見て
「カッコイイ、変わってるの乗ってるね」
なんて、声を掛けてくれた。
俺はお礼と一緒に頼まれてもないバイクの説明をして、だらしなく笑った。
することがない俺達は、寒くなるまで何度も友達とバイクで走りに行く。そのある時、なっちゃんは来てるのにヒデが来てないという日があった。
話の流れで、なっちゃんが俺の後部へ乗ることになった。ドキドキもしたけど、それよりも安全運転に心掛けた。
俺達は目的地に行き、ヘルメットを脱ぐ。
「ニッキ君、安全運転で安心出来たよ。」
なっちゃんは皮肉でそう言ったのか、心からだったのかは分からなかったが、帰りの道でも俺の後ろに乗ると申し出てくれた。
第四章 奇跡
こうして俺達は数える気にならないほど、ドライブだかツーリングだかの回数を無駄に重ねた。いや、無駄だったように思っただけで、無駄でもなかったかもしれない。
ここ最近、ヒデが全く顔を出さなくなった。
なっちゃんに聞いてみても、知らないと言う。
そして、ヒデの穴を埋める様に、なっちゃんの隣に俺が居て、ヒデが居なくなった今、ニッキと言えばなっちゃん。なっちゃんと言えばニッキ。こんな風に友達からは言われ始めた。
最初は、なっちゃんと5分話しただけで窒息死しそうだった俺も、気がつけば何時間でも話せる様になっていたし、大人しいなっちゃんも、俺には気兼ねなく話せる。そんな関係になっていた。
そんな俺達が2匹だけで、飯に行ったり、映画を観たりするのは、ごく自然な事だったが、ここにくるまで、2年と少しかかったのを考えると、自然でもなく、ミナクルだったのかもしれない。
第五章 サチ子
俺達はごく普通のありふれた日常の中だったが、2匹で一緒にいる時は、どんな事もワクワクして居られた。
ホラー映画に震える俺を笑ったり、夕立ちが上がれば外に飛び出して虹を探した。
そんな生活を邪魔する奴が現れる。
「サチ子」
その名はなっちゃんからよく聞いていたが、このサチ子がやたらと、なっちゃんの家に居る率が高い。
1匹で暮らしていたなっちゃんの家を、まるで自分の別荘の様に使っている。
ある日、なっちゃんの家にゲーム機があった。
今まで無かったのに、突然だ。
俺はなっちゃんに
「ゲームするんだね」
問いかけると、サチ子の物だという。
「?」サチ子がゲームするなんて聞いたこともないけど、ふーん…そっか。
俺は、それ程気にしなかった。
そして或る日の仕事終わりに、いつもの様に俺はなっちゃんに電話して、今から行くよと伝える。
「いや…今、サチ子来てるから…。」
なっちゃんの答えはこうだった。
「ふーん。そっか。。。」
俺の胸はザワつく。まさかな… いやまさか。
ザワつく時って悲しいけど、だいたい的中している。何か変化があったからザワつく訳で。
俺は少し不安や疑いを抱きながら、それでもなっちゃんを信じた。
しかし、謎に上昇し続ける「サチ子率」
一緒に居てもサチ子からメール。俺と一緒に居ない時は、ほとんどサチ子と居る。
俺はモヤモヤとした、今までとは全然違う日々を送り始める。
第六章 車
俺はモヤモヤはしていたが、会えばなっちゃんはいつも通り笑っている。
どうやら、気のせいだった様だ。
他者を疑う程、無駄な時間、しんどい時間はない。
俺は、また楽しい日常に戻った。
ある仕事終わりに
「全品100円!!」
というドーナツ屋のノボリを見掛けた俺は、たまにはなっちゃんにと思い、ドーナツを数点購入。なっちゃんに渡したら、すぐ帰るつもりであったし、連絡せずになっちゃんの家へ。
俺はいつもの所に車を停めて、ドーナツを片手に「喜ぶだろうな(^-^)」とか思いながら、なっちゃんの部屋に歩き始めた。
━━━━━━━━ガサッ……
俺の右手からはドーナツが落ちる。
ヒデの車が停まっていた。
血圧が変な上がり方をしているのが分かった。
俺は震える手でなっちゃんに電話する。
なっちゃんは電話に出るなり
「今日もサチ子が…」
言い終わる前に俺は「家の前に居る」
しばらく黙っている、なっちゃん。
俺は聞く
「なんだよ…?ヒデ来てんだろ?」
「うん。。」
なっちゃんは凄く小さい声で応えた。
「ちょっと出てこいよ。」
俺はそう言いながら、もうなっちゃんの部屋の前に立っていた。
「今日は帰って……また話すから…」
なっちゃんは今にも泣き出しそうな声だった。
俺はダメ元でドアノブをひねる。
ガチャ!
開いてぅ━━━━|艸゚Д゚| マジカ! シメトケヤ!
俺はもう、なっちゃんはどうでもよかった。
ただ、何も知らないヒデを不憫に思い、3匹で話す必要があると思ったが、玄関がスンナリ開くのはちょっと誤算だし、ドラマチックじゃない。 っんも!
第七章 ビッチと愉快な仲間達
俺は部屋に入る。
見慣れた部屋なのに、とても居心地が悪い。
俺は単刀直入に話を進めた。
「ヒデ、ごめんな。俺達付き合ってんだ。
1年前くらいから。だから帰ってくれよ」
ヒデは黙っている。
なっちゃんも黙っている。
「知らなかったんだろ?」
俺はヒデに問い掛けた。
ヒデの答えは意外なものだった。
「僕も付き合ってます。」
俺の脳ミソはフル回転するが、よく理解できない。俺はヒデに詳しく聞く。
どうやら、ヒデとは2年前から付き合ってるらしい…。そして何か喧嘩して険悪だった時期に俺が登場して、なっちゃんは見事俺に乗り換えた筈だったが、後にヒデと仲直り。本命は俺で、ヒデは大本命という、まぁよくある、三流シナリオ。
俺はだいたい理解出来た。どう考えても俺が今は邪魔な存在。;:゛;`(;゚;ж;゚;)ブフォ
さて、どうしたものか。
仕上げと言っちゃなんだが。。。
「おい、この場で決めろ。」
俺はなっちゃんに言い放つ。
勝ち目がないのも分かっていたし、ただココでヒデを選べば、この後のコイツらの関係は少しでもいいものになるのかと、俺は気に入っていたヒデに俺と同じモヤモヤした時間は過ごして欲しくはなかった。
なっちゃんは、そんな事出来ないと泣いているが、もう俺の鼓膜はビッチの言葉には少しも震えなかった。こんな事が出来て、何故選ぶことが出来ない。俺はバカは好きだが、こういう「良人」ぶって、誰にでも好かれようとするクソビッチが1番許せない。
こんな馬鹿げた儀式もなっちゃんではなく、俺はヒデの為に執り行っていた。
そして俺は、もう一度聞く。
なっちゃんは泣きながらヒデを指さした。
そりゃそうだろう。
「ゲームセッツ!!」
俺の中の審判が大きく手を上げて言った。
そして、俺の心のモヤモヤはなくなり、モヤがなくなった視界に一番に見えたのは、この部屋から出ていく「ドア」だった。
俺は立ち上がりドアに向かう。
性懲りも無く「ニッキくん!」等と抜かして、タワケが玄関まで走ってきた。
俺は自分の持てる全ての冷気を、この真っ赤な瞳に集め、冷め切った目で、涙ぐむタワケを眺めた後
(*」´□`)」おーい!
ヒデを呼んだ。
ヒデも何かを察したらしく、安いドラマみたいに、タワケを部屋へと連れ戻した。
俺はカラダを返し、自分の車に乗った。
第八章 なっちゃん
あの日から、どれくらい経ったろうか。
しばらくは眠れない日々が続いたが、
俺は「ソンナコトモアラァー」
と、能天気節を炸裂させて、もちろんなっちゃんともヒデとも縁を切った。
━━━━━そして数年
なっちゃんがヒデとは違う誰かと結婚したらしい。「おめでとう!!」とも思わなかったが、俺は少しだけ、祝福の気持ちもあった。
空にはデカい虹が正面に架かっていた。
その虹の向こう側に、なっちゃんの住んでた街があった。
この詩をもって、
この物語を胸に仕舞う…
━━━空に架かる虹を見てる
君は元気かなっちゃん?
僕が見てる今、この虹を
君も見てたらいいのにな。 ー完ー
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ニッキ
が
しました