俺は腰が弱く、目が覚めた時に起きれなくなったことがあって、そのまま入院。
今日はそんな話。


第一章     靴下

数年前の秋。
俺は仕事とバンドをしながら、楽しい生活を送っていた。でもその時はバンドにドラマーが不在で、リズムはドラムマシーンで打ち込んでいた。
俺は打ち込み作業の時に姿勢が悪く、それを連日続けるとなると、なかなかに腰に負担がかかる。そのせいで俺は軽い腰痛に…

俺は仕事中、ヌルリと生暖かい、そんな違和感を腰に感じていた。
なんか少し痛い…。でも全然余裕だな。
重いものだけ持つのを控えよう。

それほど、腰の痛みを気にせず俺は仕事を続行…これがマズかった。
翌朝、俺は目が覚めてベッドから起きようとする。腰に激痛。
数分かけて俺はどうにか起き上がり、仕事に行く為の準備、顔を洗い、歯を磨く、そして着替え。最後の仕上げで座って靴下を履く時に、

(*゚ロ゚)ハウッ♡スゴイ
体を仰け反ってしまう程の激痛を俺はビンビン感じてしまう。

何度かチャレンジするが、どうしても靴下が履けない…。
俺は職場に連絡して、病院に行ってから出勤すると伝えた。


第二章    ソーシャンクの空に

俺はなんとか車を運転して、病院に辿り着く。
それ程の待ち時間もなく、俺は医者に呼ばれた。レントゲンだったか、なにをしたのか忘れたが、とにかく今日から入院だと告げられる。

……マジか。これは参った。
近々LIVEの予定があるのに…。

仕事の代わりは居たが、バンドで俺の代わりのギタリストは居ない。
これはカッコイイ話でも何でもなく。
事実、普通はそうなのだ。

そして、俺はオバサンの看護婦に連れられて、入院する病室へとやって来た。
多分2人部屋?くらいの大きさなのだが、部屋には俺1匹。

これ快適だけど、幽霊出たら誰を呼べばいいんだろうか、、俺はそんな心配をしながら横になり、家から持ってきた「刑務所のリタ・ヘイワース」というスティーブン・キングの中編。
あの「ソーシャンクの空に」の原作。
平たく言うと「脱獄のお話」、それを読み始めた。


第三章    ブロックチュウ

まず2、3日安静に入院、そんなに長引く入院ではなかったが、数日様子を見て治療法を考えていくという中で
「後日に、1回目のブロック注射しますね」
と、告げられる。
なんだか、腰の辺りに注射するらしい。
詳しい事は分からないが、おっかないのは、なんとなく分かった。

でも、俺はそんな事はどうでもよかった。
腰さえ治るなら仕方ないし、
それよりも気になったのは「LIVE」までの日数。時間がない…。
1回目のブロック注射が、LIVEの前日だった為、即効性がある注射なら、ギリギリ間に合うか?俺は、その翌日のLIVEを意識し始める。


第四章     計画

俺は見舞いに来てくれた、一平くんに注射の日程の事を話した。

「LIVE…やれるんじゃないかな?」

と、俺は一平くんに伝える。
それに対しては、一平くんも

「まじ?退院出来るん?」
と、ハテナ顔。

入院初日に読んだ「刑務所のリタ・ヘイワース」に完全に影響された俺は、一平くんに脱走の計画を持ち掛ける、それから2匹で少し真面目に考えた。
  • 夜の巡回、その時間と内容
  • 病棟内の施錠の状況
  • 脱走経路
  • 俺の服とギター
  • 待ち合わせ場所
これらを中心に話を進めた。


第五章     作戦

一平くんと打ち合わせた俺は、まず一平くんに家の鍵を渡し、洋服の場所と、ギターを弾くために要るものを伝える。
これで、とりあえず服とギターの問題は消えた。

次に、夜の巡回と内容。
おそらく、LIVEに行くなら21時の消灯後すぐから、23時過ぎまでだとする。
その間に看護師が何度、俺の病室に来て、どの様な内容か…。内容というのは、チラリとドア付近から見るだけかとか、俺の隣まで来るかとか。そういったこと。
これは、夜に俺が寝ずに看護師を監視して答えを出す必要があった。
よし…今晩は徹夜だ。

そして、その夜。
俺は入院生活の退屈さから、消灯前からグッスリのグーちゃん♡自分の詰めの甘さに吐き気を覚えながら、己の戒めとして、ここは一か八か布団だけコンモリさせて、後は天に任せるという作戦。
作戦名は「一か八か饅頭」


そして、施錠関係。
これは昼間のウチに俺が病院内、ほぼ全ての窓の鍵を開けておく。そして、明くる日にもう一度見に行って、鍵が閉められてない窓を見つけるという意外と地味な作戦。

俺は腰痛によるヨチヨチ歩きで病院内をウロウロ。
看護師達には、「リハビリ程度に、、」等とストイックな俺を演じるが、俺の目的はこの者達を全てペテンにかけることだった。
そして、窓ガラスの鍵を開けてゆく。

病院は3階までしかない小さな病院だったが、いくらストイック最中の俺でも、3階からのダイブとなれば、多少の犠牲も覚悟した。
作戦名「ストイッ子」




そして、脱走経路。
これは施錠と深い繋がりがあるが、もし鍵が開いている窓があった場合。そこまで、どういうルートで行くか、
そしてその先に待っているのは、
「自由」と「エレキ」
作戦名「ルート66」とする
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作戦は以上。
そして、俺は任務遂行の時を待つことに。


第六章    リトルニッキ

俺は無事にブロック注射を済ませ。腰の痛みも和らぎ、その時はやってきた。

根っからの不良の俺ときたら、看護師の前で歯を磨き、
「俺、寝まっせ」
のアピールを怠らない。

でも、実際はどうだろ。
右手には歯ブラシ、左手はポケットの中で、
一平くんからの通信を待つ、携帯電話を握る。
握った携帯電話がブルッとヴァイブレーションした時、俺の自由への扉が開かれるのだ。




そして、
━━━━消灯後、間もなく

ウィィン  ウィィン  
電話のヴァイブレーション。
自由への鐘が鳴らされた。

サァ  行コウゼベイビー

             ロッケンロー!!


俺は自分の布団を枕やバッグでコンモリ。
OK  誰が見ても俺が寝てる様に見えるぜ!

念の為、見つけた看護師が騒ぎださないよう、僅かだが、枕元にチプーも置いておく。


そして、俺はソッと病室を出た、
心臓が膨らみ、そして縮む、その速度は少しづつ早くなってきた。
……詰め所である。
中からは、ガチャガチャとなにかをしている物音。詰め所から廊下に漏れる光で、優しい看護師の皆さんが働いている影が行ったり来たりしている。

「ごめんなさい!」

俺は思わず、魔が差して胸中にて謝罪の言葉。
そして俺は脱走する行為を迷い始めていた。
しかし頭の中に、もう1匹の俺(リトルニッキ)が現れて、

「行カネェナラ俺ハ行クゾ

        オメェーハ  ソコデ   一生謝ッテロ」

リトルニッキは俺に冷たく言い放ち、彼は行ってしまう。

「待って!待ってよ!僕も行くから!」


俺は小さくなっていく、リトルニッキの背中を追いかける。
腹這いにり、ほふく前進を始めた。
詰め所の前の壁いっぱいに張り付き、イモムシの様に遅いスピードで詰所の前を這いながら

「待ってよ!置いてかないでよ!

          お願いだから  僕を1人にしないでよ…」


俺は泣きながら、リトルニッキを追いかける。

俺は無事に詰所の前を通過した。
リトルニッキの姿は、もう無かったが、俺はもう怖くなかった。


次は開いている窓…。
一階と二階の間にある、踊り場。
ここは鍵の確認をしていないと、俺は知っていた。だから、今夜ここから抜け出しても、帰ってきた時に閉まっているという可能性も極めて低い。
俺はゆっくりと窓ガラスを開ける…。
少し高いが届く許容なのも調べはついていた。

俺が窓から顔を出すと、そこには一平くんと【自由】、それにあのリトルニッキが俺を見て、手を打って笑っていた。
俺には、俺達にはLIVE会場で待ってる客なんて1人も居なかったが、そこには俺達のロックが待っていた。行かなきゃ…

病院のアルミの窓枠に髑髏の手袋
踊り場をコンバースで蹴り、俺は外に出た。

サァ  行コウゼベイベ   

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                                                       〜完〜