一平くんと俺との歴史が長いのは、だいたい分かっていただけたと思うが、実はグレイスともかなり長い。
その長い歴史の中で奴と会う時は、彼女はだいたいベースをぶら下げているし、俺も奴の前では、ほぼギターをぶら下げている。
どういう事かと言うと、俺達は音を出す時以外は、ほとんど会わない。行動しない。用がない。

一見悲しく聞こえるが、これが一番健全な形かもしれない。

では、そんなグレイスと俺達の出会いと、その軌跡。それについて話そうと思う。センキュベイベ

第一章    なるほどねっ!

俺と一平くんは、エディオンとも別れ、それからも数名のベーシスト、ドラマーとコンタクトを取る。しかしなかなかピタリと来ない。
俺達は半ば諦めながらも、日々「バーチャファイター」で各々の技を磨くという日々を送る。

━━━そんな時、メン募に引っかかった者が。

「グレイス」…奴である。
俺達は、もう面談には慣れっ子になっていて、適当な喫茶店で会う約束をして、後日会うことに。

待ち合わせ19時キッカリ。
俺達は約束の喫茶店の前へ。
間もなくグレイスも到着。

少しピチリとした、お洒落な感じのスーツで現れた奴の手には、ゴツめのシルバーリングがズラリ。
仕事中にもしているのか?
それとも、仕事帰りにロック面談ということで、車内でハメてきたのか?
もしくは、藤井フミヤの化身なのか?
俺はそんな事を考えながら軽く挨拶して、喫茶店への入口に向かう。

カラン♪カラン♪
━━━━━入店  入店


俺達は店の女に案内され、3人掛けのソファーが向かい合う、6人席へと案内される。
俺は腰を下ろし、その隣に一平くん。
そして俺達の正面にフミヤ(化)。

そして俺達は軽い自己紹介を済ませる。

実は面談の数日前に俺とグレイスは電話で少し話をしていた。
それは興味のある音楽が全く別なら会う必要もないし、少し話すことにより何らかの相手の情報を探り合う。そんな感じ。

その時の会話はこうである。

俺「初めまして。パンク、メロコアが好きです。ブルーハーツから始まり、ラモーンズ、グリーン・デイ、ハイスタとかですね。」

グレイス「へぇ〜、そうなんだ。どちらかというと、グリーン・デイよりハイスタが好きなの?」

━━俺は少し違和感を覚える。
           なぜグリーン・デイとハイスタ
                両バンドを甲乙つけたがるのか。

俺「いや、どちらかというとグリーン・デイが好きなんです。掻き鳴らす系の。」

グレイス「なるほどねっ!」

グレイスは、それ以上何かを聞くわけでも、言うわけでもなく。「では、後日!」と、いった具合で話を切り上げた。
グレイスは現在でも口癖が「なるほどね!」
なのだが、付き合ってきて分かったのは、奴が「なるほどねっ!」を使用する時、それはいくつかのパターンに分類される。

1.ほとんど話を聞いてないパターン
2.聞いてはいるが、どちらでもいいパターン
3.他者を見下してるパターン

今回のそれは3の見下してるパターンに分類されていたと思われる。

そして話は喫茶店に戻る。

第二章  リトル東京

俺達は自己紹介を済ませ、しばらくコーヒーに舌鼓。
そこで俺はグレイスにたずねる。

俺「グレイスさんは、どんな音楽が好きなんですか?アーティスト名とか聞かせてください。」


グレイス「あー、俺はメタルが好きだから、やっぱりメタリカとか、メタリカ…。あとメタリカも好きだなぁ。」

いくつか教えてくれたが、メタルを知らない俺には全部メタリカに聞こえたし、全部メタリカでいいと思った。

━━━ん?
     そして、俺は気がつく。
                         あの質問の意味を…

先日の電話。
なぜ、少しハイスタをプッシュしてきたのか。
グレイスはメタル好きで、ギタープレイはウェットで刻む感じがどちらかというと好みなのだ。……なるほどねっ!(②用いる)

それともう1つ俺は気づく、奴は油断したのか、それともただのウッカリ者なのか。他は騙せても、このニッキは騙されない。もう一度、奴の言葉を頭の中で反芻する。

​グレイス「あー、俺はメタルが好きだから、やっぱりメタリカとか、メタリカ…。あとメタリカも好きだなぁ。」​​

​いやいや、おかしいだろ?
俺達の故郷(くに)では

「あー、俺はメタルが好きやけん、やっぱりメタリカとか、メタリカ…。あとメタリカも好きやなぁ。」

こうなるのが本当だ。
全く引っかかるとこだったぜ。
━━━━━━━この、よそ者が!

奴の正体を見事見破った俺は一気に奴を追い込む作戦にでる。

俺「グレイスさん松山の人なんですか?」

グレイス「いや、出身は東京」

……と、と、Tokyo。
俺の目の前に東京人、俺は狼狽えた。
しかも、俺達と同じバンドに?東京人が?
バカ言っちゃいけねぇ。
俺はテーブルの下に隠れた己の太ももを
「ギュゥウウ」とつねる。……痛い。
どうやら夢ではない……。

東京という地名で、見事俺からマウントを取った奴は猛々しくこう続ける。

グレイス「大学までは東京で、仕事の都合で愛媛に来たんだよ。キラリ☆」

奴は東京出身で、しかも大学まで!
グヌヌ!このアマ、調子に乗りやがって!

一平くん「へぇー、僕も少し東京に居たんですよ。何処ですか?」

ナヌ━━━?∑(  Д )─=≡⊙ ⊙ ポ---ンッッッ!

まさかの裏切り行為……。
6人掛けのテーブルに3匹、内2匹は東京経験者。しかも1匹は大学まで……。

その後、ほぼほぼ東京と化した喫茶店の一角で、この俺は一平くんとグレイスの「東京話」にしばし身を小さく揺らし震えた。


……復讐だ。このアマ。
メンバーとして受け入れて、そこで復讐だ。

俺はグレイスをバンドメンバーに加え
    そこでゆっくりと料理するこに決めた。IMG_6894



第三章       【神】降臨

こうして、「東京」「大学」という武器を乱暴に振り回し、見事メンバーとなったグレイス。

しかし、奴の「東京っぷり」はそれだけにとどまることを知らず。
練習時間には遅れてくる、メールの返事はしないという、田舎者の俺を嘲笑うかのような暴挙に出る。

━━━━ますますもって気に入らねぇ。

しかし、今グレイスを辞めさせてどうする。
やっとの思いで捕獲したベーシスト。
俺は悩んだ。苦悩。葛藤。また苦悩。

そんな俺の気持ちをよそに、奴は飄々とベースをボインボイン鳴らす。
そして、ある日の練習のこと。

俺達はスタジオに集まり、いつもの様に練習を始めた。
練習スタジオには、ドラムセットにアンプ、そしてボーカリストの為か?姿鏡が置かれているのだが、そんな事は当たり前すぎて気にもしてなかった。そして俺達は練習を開始する。

ドラムのカウントで楽曲がスタート、だいぶ慣れてきた曲だったし、誰かをチラリと見る余裕も出来た、俺はドラマーに目を向ける。
「よし、サボってないな。」
   
その次にボーカルの一平くんを見る。
「よし、一平くんもサボってない。」

そして、問題のあのアマ。

……あのアマ。
居ないーー!!∑(  Д )─=≡⊙ ⊙ ポ---ンッッッ!


奴がベースアンプの前に居ないのである!
どこだ!どこへ行った!!
俺はスタジオ中に目を這わす。

なんと、奴はボーカル専用であろう姿鏡の前で、とても気持ち良さそうにベースを奏でている。

おい!まじかっ!!これはっ!!

俺はその奴の後ろ姿に、眩い光。
そして「エディオン」
神の残像を見ることになる。

俺は思わず
「エ・エディ……」
いや、違うしっかりしろ!俺!
そこに立っているのは、神でもなんでもない。
自身があれ程憎んでいた、東京野郎じゃないか!認めるな!認めるな!

そんな意思とは裏腹に、俺は母親の手の中にいる様な安心感。安堵感が押し寄せてくる。
次の瞬間には楽しい気持ちになってきて。
俺はしばらく奴に見とれた……。

━━━━またしても、完敗。
俺は、このアマにまたしても完敗したのだ。

第四章   神殺し

スタジオの姿鏡。
「神」に成りすまし、この俺達のバンドに居続けるグレイス。恐ろしい女だ…。

そんな恐ろしい女と共に俺達はしばらくバンドを続ける。
そして、俺達の中では
「そろそろ音源を作ろう!」
等という声も上がり始めた。

俺達は数曲用意して、レコーディングに臨む。
ドラムとベースの録音。そしてギター。
最後にボーカル。という順番でレコーディングは順調に進む。
少し疲れはじめた俺達はコーヒーでも飲もうと、スタジオからフロアに出た。
レコーディングの最中ということもあり、俺とグレイスは、ギターとベースをぶら下げたまま休憩。


一平くん「どうだった?」

ニッキ「まぁ、あんなもんだよね。」

ドラマー「はい。順調ですね。」

ニッキ「グレイスはどうだった?」

俺はグレイスの方に振り返る。

居ない!!?∑(  Д )─=≡⊙ ⊙ ポ---ンッッッ!

どこだ!どこへ行った!!

俺達はフロア中見渡して、奴を探す。


━━━━━━━━━━━━━━━。
奴はフロアの端っこにある姿鏡の前で1匹ベースを弾いていた。
レコーディングの進み具合?
レコーディングの出来栄え?
奴には、そんなこと無問題。
そんなことより己が見たい。

一心不乱に鏡の前でベースを弾く彼女、それは神さえも超えた瞬間。

いや、むしろ
 神さえも喰らった瞬間なのかもしれない。

第五章    グレイス

神さえも喰らった女グレイス。
俺達はいつしか、そんな光景さえ当たり前になり、むしろ愛すべき姿だと捉え始めた。

東京出身。大学出。
遅刻もする。返事もしない。鏡が好物。
気がつけば、そんなことはどうでもよくなっていた。

今日まで、彼女とステージに立ったのは何回だろうか。もう忘れてしまった。かなりのLIVEを一緒にしてきたと思う。
やってもやってもうだつの上がらないバンド。
でも、俺達はLIVEが決まれば集まり、客の居ないライブハウスでLIVEを繰り返した。

そこには何が生まれたのか。
きっと何も生まれていない。
ただ夢みた時間は、いつも同じ場所に居た。

曲中にドラムが止まり、
演奏がストップしたLIVEの時も。

何度もドラマーが脱退して、また1からやり直しになっても。

打ち込みのドラムで、対バンにカッコつかないLIVEの時も。

そして、

蛙になっても。


奴はずっと居た。

それが、グレイス。
ファミリーなんだよ。IMG_3359