これは俺と一平くんが、まだ2匹で活動中の話。俺と一平くん2匹は気の合う仲間になかなか巡り会えず。数名のベーシストやドラマーとバンドを組んだ。
ハッキリ言ってロクなの居ないし、向こうもそう思っていたことであろう。

しかし、その中でも異彩を放つ1匹の珍獣。
そいつはベーシストの「エディオン」

この小さな街「松山」で、奴のことを知る者は意外と多い。現メンバーのグレイスもエディオンの存在は知っているし、驚きなのは俺は実は1匹だったころ、このエディオンとバンドを組んだことがある。

そう、あの「エピソード0」にも登場した
「3年B組」の片割れのベーシスト。
そいつが、伝説巨神エディオンだった。


俺と一平くんは、なかなかメンバーが集まらず、どうにかして1匹でも捕獲したいと考えていた。その時に俺は思い立つ

「そういえば、
       3年B組におとなしいの居たな…」

俺はエディオンに電話する。
エディオンも俺には懐いており、二つ返事で俺達のバンドに参加してくる。

第一章  長髪の唇

ここで、エディオンのスタイルを紹介しておく。身長は165〜170cm。体重は恐らく65㌔程。
どちらかというとインディアン顔でポッテリとした厚くジューシーな唇、髪は肩より少し下まで伸ばした。俗にいうロン毛スタイル。服装はよくエロ雑誌の最終ページに掲載されてる「運気が上昇するクリスタル」の広告に出てくる様な。どうにも優劣、甲乙つけがたい、中途半端な仕上がり。
そして口癖は「割と」のことを「わりかし」と言っていたダサい口癖。

第二章  地下の濡れ雑巾

俺達はエディオンと練習の約束をして、電気屋がモグリでしている様な、地下室の練習スタジオに入る。機材はボロボロなのに、おそらく動員可能数は200人程の宴会場の様なスタジオだった。

そして、エディオンと俺達は↑THE HIGH-LOWS↓の「相談天国」をプレイ。
俺と一平くんは人見知りというか、常識の範囲内というか……。
俺はエディオンに会うの久しぶりだし、一平くんは初対面、いきなりノリノリになんてなれず、まぁ様子、間合いを見るようなプレイに対し。エディオンときたら、自慢のロン毛をバッサバッサと揺らしたと思えば、今度は歌舞伎役者の様にグルングルン……。そのまんまプロペラ式に飛んで行くんではないかと心配したが、曲が終了すると、奴は俺達と同じ大地に、しっかりとその両足で立っていた。ひとまず安心である。

俺達は、曲の出だしのリズムが〇〇だとか、色々とおかしい点を修正する為の話をして、再度プレイ。

もちろん、バッサバッサも健在だし、グリングルンに関しては、奴の多汗症も手伝って、全力で振り回す濡れ雑巾と化していた。

その日、俺達は濡れ雑巾と練習終わりに少し話をして解散。

俺は後日、一平くんと話す機会を設ける。
一平くんにバンドとエディオンの感想を聞く。

「何?あいつ?気持ち悪い!
        ダサすぎやろ……ねーわ。
      一緒に居るの恥ずかしい!!」
等と、まるで合コン後の女子がメンズをディスるかの様なコッテンパン。

これには俺も閉口だったが、一平くんが言うのも無理もない。確かにダサかった。

そして、俺達はエディオンに別れを告げようと思ったのも束の間……。
まさかの奴の方から脱退を申し出てきた。
俺達2匹は揃って閉口し、その帰り道ではエディオンの悪口大会が開催された。

━━━━そして、2日後
一平くんから1枚の紙が渡される。

第三章  クルックー(鳩)

一平くんが俺に渡してきた一枚の紙。
そこにはビッシリと文字が書かれていた。
内容はこうである。

「無駄にロン毛で  クルックー
    オカマ野郎が  クルックー
   どうでもいいけど  つまんねぇ
   どうでもいいけど  笑えねぇ」

一平くん自身が大嫌いな鳩にエディオン。
奴を重ねて殴り書かれた歌詞は、すでに歌詞という領域を超えて「呪いの呪文」となっていた。

また2匹になった俺達だが、

ほんとに、その歌詞をメロに乗せて2匹でプレイしたというゲスっぷりは俺達2匹しか知らない。


第四章  伝説巨神エディオン(再)

エディオン。奴と別れてからどれくらいの月日が流れたろうか。俺達2匹は散ってゆく桜を何度見たか。「今年初めての!」と言われる西瓜を何度かじったか。そして、年末の鐘の音を何度聞いたか…。

俺達は忘れた。それが何度だったかも。
そして、エディオンの事も。

しかし、俺達はまた奴と再会する。
自慢のロン毛をバッサリと切り落とし、何故だか頭にバンダナを巻いている奴と、俺達は数年後にLIVE会場で鉢合わせする。

俺はエディオンに挨拶
「久しぶりだね。バンドしてたんだね」

すると奴は片方の口角だけを意地悪く上げ
「ニッキと一平くんも、まだバンドしてたんだ   ね。嬉しいよ!
次、俺達のバンドだから見てね。きっと満足してもらえると思うよ」

ウィンクこそしなかったものの、全てを言い終わった時にウィンクが付いてきても何も不思議ではないような言い方で、奴は俺達に満足宣言をしてきた。

━━見せてもらおう。エディオンのチカラ。

転換が終わり、いよいよ奴のバンドがステージに現れた。

第五章  王者の風格

エディオン率いるロックバンド。
メンバー構成は以下の通りである。

ボーカル:
無駄に爽やかで、笑顔というより単にニヤケているだけとも思える。スポーツマンタイプ。
さしずめ「卓球部の主将」といったとこか。

ギター:
虚弱体質、顔面蒼白、戦意喪失、自律神経
あまり感じの良くない四文字熟語が誰よりも似合う男。俺達は「モルヒネ」と呼んだ。

ベース:
我らが伝説巨神エディオン。
頭にバンダナ、ジューシーな唇、眼光は百獣の王、そして家には図書館並にエロビデオが収納されてるという神話を耳にしたことがある。

ドラム:
全然覚えてない。
故に居なかったのかも?もしくは透明人間。
どっちでもいいから「空気」と呼ぶ。

そして、いよいよドラムスのカウント

ワン!ツー!スリー!フォ!


ジャカジャーーン!!
メンバーがステージ前までせり出してくる。
向かって右にはモルヒネ。中央にエディオン。
エディオンの後方に卓球部主将。

中央にエディオンっっ!!

ナヌ━━━?∑(  Д )─=≡⊙ ⊙ ポ---ンッッッ!
              
なんとエディオン、バンドの花形であるボーカルを押し退けて中央でベース。
ソロパートでもなんでもない箇所で中央でベース。俺はド肝を抜かれた。

…あいつ…なにやってんだよ…?

そんな感じで終始エディオンはグイグイと前のめりにベースを弾きまくり、なんと最後の楽曲が終了した時には「ゥワーっ!!」とも「ガぉー!!」とも言えないような雄叫びを上げて、フラフラと膝をついた。

完全にバブリー。バブル期のアレ。
マッチが無理して歌って「大丈夫!大丈夫!」と、小さく右手を上げる様な。。。
そういう、いかにも頑張ってます感というか、安っぽいヒロイズムというか。
ハッキリ言って、ここまでくると見応え有りだった。是非また見たい。

俺はLIVE後の奴に、
「見応えあったよ。
       またいつか対バンしようね(^-^)」

そう告げると奴は
「いつでも相手になるよ♡」

訳も分からない、若干上からのゲイ発言。
でも、俺は奴の言う通りスッカリ満足してしまった。

━━━さすが神。やりおる…。

第六章  神話  〜完〜

前回のLIVEでエディオンのチカラを体感し、癖になってしまった俺はエディオンとの対バンを次か次かと楽しみにしていた。

しかし……俺は悲しい神話を耳にする。

エディオン…。バンドをクビになったらしい。
理由はフロントに出るなと注意しても出てくるという、人間のエゴによるもの。

神だから、神だからそれは仕方のないこと。
前にも出ちゃうし、目立っちゃう。

そしてエディオンは自分が生み出した人間の手によって葬られてしまったらしい。

━━━神話の結末は、いつも悲しい。

俺は今でも高く蒼い空を見ると思う。
どこかからエディオンが俺を見守ってくれているんじゃないかと……。

そして、こう歌う。
「無駄にロン毛で  クルックー
    オカマ野郎が  クルックー
   どうでもいいけど  つまんねぇ
   どうでもいいけど  笑えねぇ」
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